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2021年12月26日日曜日

花の時間

中学・高校生時代はフランス文学をよく読んだ。

中学生の想像力ではよくわからないながら、それでも実年齢よりも大人になりたくて、ただ読んだ。マルタン・デュ・ガールの「チボー家の人々」、ギュスターヴ・フローベールの「ボヴァリー夫人」、ロマン・ロラン「魅せられたる魂」。

高校になってサン=テグジュペリの「夜間飛行」「人間の土地」の透徹した個人主義の感触に惹かれ、何度も繰り返し読んだ。夢中になったのは、堀口大学の名訳も相俟っていたかもしれない。「愛するとはみつめあうことではなく一緒に同じ方向を見ること」。これもよく引用される有名な言葉だ。あの頃最先端の職業であったパイロットで、44歳で二次大戦中に地中海上空で消息を絶ったという人生も、ある意味謎めいていて好奇心を掻き立てられた。

という印象だったが、今般出版された青柳いづみこ氏の「花を聴く 花を読む」には、サン=テグジュペリが実は彼の作品「星の王子様」にでてくる我儘な「薔薇」に似たところがあるという記述があり驚いた。彼の「薔薇」に擬せられた妻コンスエンロが書いた「バラの回想」を読むとそういう一面が見えてきたそうだ。

冒頭の「薔薇」の章から一気に惹き込まれ、勿体ないことにその日のうちに読破してしまった。ちなみに、「薔薇」をタイトルに関する曲は結構少ないそう。好きな作曲家であるヴィラ=ロボスが「カーネーションはバラと喧嘩した」という面白い曲があるそうなので早速きいてみよう。一気に読み終わったが、これから本に記された「花」の音楽をネットで探して聴きながら読むつもり。知らない知識、聴いたことのない曲が一杯詰まった、ひと足早い「音楽の福袋」だ。(写真はAMAZONより借用)

同時に刊行されたCDが、こちら、「花のアルバム」。本にでてくる曲も入っている。フランス音楽の大家なので、クープランの「ケシ」、タイユフェールの「フランスの花々」が入っているのは想像していた路線だが、八村義夫の「彼岸花の幻想」のように日本人作曲家の手による4曲も全て初めて聴く曲で興味深い。

多彩なタッチで、花の質感や、時には香りのような空気感まで表現できるピアニストだからこその選曲だ。


写真はHMVより借用。画は本、CD共に渡邊未帆氏。

2021年12月25日土曜日

この時期の思い出

背筋が伸びるような冷たい空気。落ち葉を燃やす臭い。ヘンデルの「ハレルヤ」の調べ。

中学・高校6年間一貫教育の女子高で、12月になると「ハレルヤ」を全校生徒で練習しクリスマスの礼拝で歌った。記憶力の良い時期に6年も歌うので、今でもピアノ伴奏が始まれば、多分多くの元生徒達は歌えるのではないだろうか。

大学の友人からもらった絵本。"First Christmas"という360度見開きになる精緻な美しい切り絵で、30年以上経つが毎年ピアノの上に飾ってみる。何度も引越しをし、なくなったものも多いのに、何故かこれは今でもそばに。


Jan Pie'nkowski作 きたむらまさお訳
朝の光の中でみても、夜ろうそくの灯ゆらめく中で眺めても、陰影が美しい。これだけの長い月日が経っても鮮烈な白い紙の色が、キリスト降誕のよろこびと清らかさをあますところなく表現している。

2021年11月23日火曜日

小早川秋聲 展覧会

東京駅のステーションギャラリーで開催されていたので見に行ってきた。

私は恥ずかしながら名前も知らなかった画家なのだが、母が「この人の赤い色は印象的なのよ」と勧めてくれた。

大正から昭和にかけて生きた人で、京都で日本画を学び、中国・欧州と旅して描き、北米に招聘されてまわり、従軍画家としても表現を続けた。

さっと一筆書きのような絵にも対象の特徴をつかん確かな技量にうならされるし、このポスターにつかわれた「愷陣」(写真はポスターから拝借)のように、何かを暗示するような「表現したい」情熱やオーラが強く惹きつけられる絵もあった。


この絵は、戦争から戻ってきた馬は埃まみれのままでいる、村人がそんな馬を花で飾って労うという漢詩に着想を得た絵と解説されていた。華やかな花々と、毛並みがずたずたになった足、不自然に身体を曲げてうなだれた体形、落涙のように見える白い花びら。馬を描きながら何を訴えたかったのだろうと心に残る一枚だ。


2020年4月17日金曜日

花便り

今週も漸く終わり。

コロナの影響は日常生活だけではなく仕事にも大きく及んできており、特に今週は海外客先工場のシャットダウンやロックダウンで受け入れ不可、出荷延期の要請や、今まで日本ではなかった客先の急な休業に出荷許可の為の書類も得られず出荷できないといった物流関係の問題が多かった。危ないと思い頻繁に窓口とは連絡をとっていたものの、窓口の人も想定していなかったスピード判断だったりして、従来業務以外の火消しに追われた。

そんな中、はらりと、友人から絵葉書が。こんな時だけれど自然は美しい、身体を労わってねと簡単なメッセージ。普段メールやチャットで音信を確かめることが多い中で、彼女らしい字と美しい花のカードに、何だか心衝かれた気がした。筆跡や絵葉書の絵がその人自身を表していて、彼女と相対しているように思える。


絵は「Fukurokujyu」Kinoshita Katsuhiro & Suda Hiroyuki

机に飾って眺めている。

2018年8月29日水曜日

向日葵 Sun and Moon Flowers レスリー ラヴェル

リビングに学生時代のみたラファエル前派の展覧会の中で一番好きだったた英画家レスリーが描く「Sun and Moon Flowers」(画像は「オールポスターズ」HPより借用)を飾っている。生花の生命力も、この絵の静謐さもいづれも向日葵の魅力だ。


1890年に描かれた作品。時期としては、丁度今年弾いたフォーレの舟唄1番(1881年)と来年弾きたいと考えているラヴェルの水の戯れ(1901年)の丁度間に描かれたとも言える。

ここ数年間、ドビュッシーの「水の反映」と共にいつか弾きたい曲リストの筆頭を飾ってきた。好きな曲という動機ではなく、フランス音楽の代表作のひとつにチャレンジしようというもの。昨年今年と「水の反映」を弾いたので、次は、という訳だが、難しさに加えてラヴェルの曲を殆ど弾いたことがないという引け目が二の足を踏んでいる理由。

難易度が高い、精密に楽譜で弾き方を指定するので窮屈、といったイメージが強く、自分には縁遠い人、と思っていた。初めて彼の曲を弾いたのは2-3年前に友人と「マ・メール・ロワ」を連弾した時。譜読みは楽だった。しかし美しく弾くのは思ったよりも難しかった。間やニュアンスを上手く表せないとと薄っぺらに聞こえ、やりすぎると厭らしく響く。シンプルで美しいメロディーは、不思議と頭の中でリフレインする。名曲のもつ曲の力、なのだろう。

曲を知る前に、ラヴェルその人にお近づきになろうか。
スイス人で実業家の父と、バスク人の母との間に1875年生まれる。父の影響で6歳でピアノ、12歳で作曲を学び、パリ音楽院に在籍。ここまでみると順風満帆なエリートと見えるが、1900年から5年にわたりローマ大賞に応募するもついに大賞を得られなかったという意外な過去が。1898年に国民音楽協会で作曲家デビューを果たすが1909年には同協会と決別し、新しい音楽の創造を目指し独立音楽協会を旗揚げ。時代は第一次世界大戦となり、ラヴェルはパイロット志願するが果たせずトラック輸送兵として従軍。この大戦中の1917年に母が世を去り、この後創作意欲は減衰したように見え、この後、作曲家としてよりも演奏家としての活動が公的には増えていく。特に1928年に初渡米でのコンサートは成功し、ラヴェル自身も米国の新しい音楽に刺激を受けたと言う。一方、水面下で病気が進行しており、1927年から記憶障害や言語症に悩まされ、1932年のパリでの交通事故で加速する。最後弟や友人の勧めで外科医の手術を受けるが治らず、1937年に62歳で逝去。

「水の戯れ」は冒頭記したとおり1901年、彼が26歳の時の作品。パリ音楽院で作曲を師事していたフォーレに捧げられた。

2018年5月26日土曜日

紅いゼラニウム カシニヨール 緑のブレスレット

ローズゼラニウムに続き、紅いゼラニウムが咲いている。次々と。風が吹くと鮮やかなスカーレットがはらはらとベランダに散る。



オリーブがベランダに戻ってきた時、次に欲しいのは紅いゼラニウムと決めていた。南欧の庭によく飾ってあって、それだけで窓辺が華やいでみえる。欧米では厄除け、魔除けの意味も。

もうひとつ理由が。フランスのリトグラファー、カシニョールの作品の中で「緑のブレスレット」が好きだ。背景の燃えるような紅い花は、私のイメージではゼラニウムなのである。我が家のゼラニウムをよくよくみると葉の形が違うような気がしてきが・・・。煙るような眼差しのこんな美女に目の前に座られたら、背景のスカーレットなゼラニウムも色褪せて見えようものだが、女性も花も一心同体のように共に活き活きとしてくるから不思議だ。ゼラニウムの花言葉は「慰め」「君ありて幸せ」。

カシニョール作 「緑のブレスレット」 無断転載させていただいています。

2018年5月15日火曜日

オリーブの花 知恵と勝利と平和のシンボル

母の空中庭園の原点と言えるオリーブ。

マンションが大規模修繕で半年以上ベランダの木々を1Fの玄関前に置いておかなくなった時、それまで丹精込めて育てた植物を全て手放した。その中でこのオリーブだけはどうしても離せず1Fの共有保管場所で育てた。漸く各室に戻せるようになり母の空中庭園に今また戻ってきた。今は白い小さな花を咲かせている。



モクセイ科・オリーブ属、別名オリバ、オレイフ。阿利襪橄欖(かんらん)の字が当てられることもあるが別の植物とのこと。花言葉は「知恵」「勝利」。ギリシャ神話が由来で、エーゲ海沿岸の町を海神ポセイドンと女神アテネが争い、全知全能の神ポセイドンが「最も人に役立つ贈り物をした方が治める」と言い渡した。ポセイドンは戦いの勝利に資する「馬」を、アテネが薬効ある「オリーブ」を植え、人々はアテネの贈り物を喜んだとのエピソード。

この他「平和」の象徴ともいわれ国連の花ともなっている。こちらは旧約聖書の「ノアの方舟」に由来する。神々が人間に与えた大洪水の罰に、唯一信心深いと助けられたノアと動物が方舟に避難。ノアが地上の状況を調べるために放った鳩がオリーブを持ち帰ったことで洪水の終わりの知らせを知ったという話。



藤城清治のノアの方舟より。鳩が運ぶオリーブが描かれている。

我が家の空中庭園にも知恵と平和が花咲きますように。