2023年3月5日日曜日

雛祭 春を待ちながら 連弾

雛祭の日。DUOポッキーズの友人と中田喜直の「日本の四季」の連弾練習。

1曲目の「春がきて、桜が咲いて」と4曲目の「さわやかな夏とむし暑い夏と」を再度さらった。ここ暫く「初春」をいきなり通り越して春爛漫な暖かさの日々も続き、本物の春を待ち望む気持ち募り、特にこの1曲目を弾くと心が軽く浮き上がるようだ。

とはいえ、この曲は「春」といって思い浮かぶ柔らかさや暖かさは描写されておらず、冒頭からメゾフォルテで始まり、桜が風に舞う景色はもの哀しい短調の和音を、しかもスタッカートで弾くように指示されている。全体的に日本人が思う春よりも楽譜上は強い書き方がされている。一方で冒頭の哀しい曲想は「桜横丁」という中田喜直の声楽曲からきており、透き通るような女性ソプラノで失恋を思わせる歌詞を謳った珠玉の小曲。

「想い出す 恋の昨日 君はこうここにいないと・・・春の宵 さくらが咲くと 花ばかり さくら横ちょう」

ピアノ連弾曲としては、やや強めの指示の楽譜に従うか、儚い恋への思いに曲調に合わせるか、いまひとつどのように弾いたらよいか迷う曲だ。4月の弾きあい会まではもう少し時間があるので二人で話し合ってつくっていきたい。

恒例のスポコン練習が終わると楽しい飲み会。友人には手伝いもしないで幾品か手土産をもっていくだけで申し訳ないのだが、また心に残るおもてなしをいただいた。

たてていただいた御茶(彼女は御茶の先生でもある)と湯島の梅の和菓子。ロゼのスパークリングで乾杯したあとは、緑濃いアスパラガスのお浸し。葡萄色のホタルイカ。黄金に光る鰆の西京焼きに薄紅色のスモークサーモン。蛤の潮汁に春の色とりどりの散らし寿司。そう、今日は雛祭。懐石料理のような逸品ばかり。

目を転じれば、彼女のお母様がつくられた雛飾りが。


この雛飾り三段全てで手のひらよりも小さいのに。人形のそれぞれの表情の活き活きと個性的なこと。愛らしいフォルム。美しい色彩。

母の雛 最も古りて 清くあり 原石鼎

2023年2月26日日曜日

「365人の仕事の教科書」 「正射必中」 背中を追って

思うところあってこの本(藤尾秀明著)を読み始めている。

1年かけて読むつもりはないので速読中。その中で「正射必中 ジェローム・シュシャン/ゴディバジャパン社長」の章は何度か繰り返し読んでいる。

5年間で売り上げが2倍になった。『目標はプレッシャーにならないように、5%像の予算を立てる。けれど、新商品は何にするか、どこに出店するか・・・・といった毎日枚に資やることは一所懸命ベストを尽くす。・・・弓道には「正射必中」という言葉があります。正しくいられた矢は必ず的に当たるという意味です。・・・雑念が入ると、的には当たりません。ただ、無心になるためには並々ならぬ努力が必要です。』

売り上げが2倍とは凄まじい数字をさらっと書いている。その後の言葉はさらっと聞けば当たり前の言葉だが、実行・実現は難しい。仕事上でもたとえば趣味のピアノの演奏ですら難しい。雑念が入らない状態、無心に集中できるまで仕事も芸も精神ももっていくのは難しい。

四半世紀前、人事から営業に異動になって、誰も営業の仕方を教えてくれる人がおらず、迷っていた時、自分で師を勝手に探した。以来、同じ仕事をすることは残念ながらなかったが、この人のような営業になりたいと背中を追い続けている先輩がいる。日々の営業作業に埋没する人達と一線を画して独自にマーケティングを行い、論理的に客に訴求するツールを黙々と蓄積し、客に足繫く通う。客の信頼を得たからこそそのニーズを捉えることも、また時に情に訴えて説得することもできる。上述の「正射必中」の言葉に会った時、先輩の背中が思い浮かんだ。

先輩が新たな職場に移られた後も年に2-3回はお会いしていたものだが、昨年はあいてしまい先週一年ぶりにお会いした。東北地方のシーフードが売りの美味しいイタリアンで。変わらず、相手の言葉を良く聞き、反芻しながら核心を衝いた質問をされたり。客であろうと後輩であろうと穏やかな物腰も変わらない。


夢中で背中を追ってここまできたけれど、自分は先輩から学んだことをどこまで実行できているだろう、教えていただいたことを他の人に伝えられているだろうかと自問自答している。

2023年2月19日日曜日

杉並公会堂のベーゼンドルファー 再会

あるリサイタルの一部に参加する機会があった。

マスネ「黒い蝶」「白い蝶」、ドビュッシー「ノクターン」の3曲を弾くことにした。あのベーゼンをまた弾ける喜びに、どんなに綺麗な音がするだろう、バスは伸びやかに響くだろうか、などわくわくしすぎて、あろうことかあがってしまった。

椅子はいつもの椅子と違って高さ調節をハンドルで行うタイプで、通常前に回せば高くなるところがそうなっておらずやり直し。舞台にマスクをつけていってしまい、一曲目を弾いているうちに息が苦しくなって二曲目との合間にはずしたり。だがここに及んで開き直った。憧れのベーゼン。泣いても笑ってもあと触れられるのは数分。楽しもうではないか。

白い蝶は細かいパッセージが苦手だが、もう構わない。白い羽のように軽く、スワロスキーのビーズのようにきらきら光るアルペジオを鳴らしたい。ドビュッシーのノクターンは対照的に最初は海の底から妖気が立ち昇るような不気味さ。そのあとに続くは意外にも鈴のような少女のソプラノとデュエットを織りなすまだ若い青年の歌。ドビュッシーに似合わない甘い盛り上がりは、もちろんベーゼンの豊かなバスで。

ドビュッシーが完成させられなかったオペラがこの若書きのピアノ曲に既に表現されている。

最後の音が消えて、私の番はもう終わり。

このピアノでまた弾きたいがために、また今年も練習をしていくのだろう。


友人にいただいた花束。庭で丹精を込めて育てられた椿と梅。光をいっぱいに浴びて生命力の眩しいこと。

2023年2月5日日曜日

連弾練習 中田喜直 「日本の四季」から

4月に日本の作曲家の引き合い会に参加することに。

DUOポッキーズの友人と相談し、連弾とソロを弾くことにした。連弾は中田喜直の「日本の四季」に収められている「春がきて、桜が咲いて」「さわやかな夏とむし暑い夏と」の二曲を予定。まだソロ曲は決めていないが、忙しい彼女と練習できる機会が殆どないので、まずは連弾の練習を優先。金曜夜に彼女の家で特訓。

一曲目はいきなり上手く合い、余裕の笑みもこぼれた。しかし問題は二曲目。いきなり彼女と私が練習してきた「夏」の曲が異なることが判明。私は2曲目の「五月晴れと富士山」を、彼女は4曲目の「さわやかな夏とむし暑い夏と」と思っていたのだ。「春と夏ね」で分かった気がしていたのがいけなかった。もっといえば春の次は夏だろうと安易に2曲目と疑わなかった私が悪かった・・・。ということで難しい4曲目だが初見で挑戦。案の定、雪崩をうって瓦解してしまった。

気を取り直してつきあっていただき、二時間の特訓が終わる頃にはどうにか目途がつき、ほっと一安心した。

終わればあとは新年会だ!とばかり、また料理上手な彼女のお手製の品々をご馳走に。節分に因み色鮮やかな旬の刺身たっぷりの手巻き寿司。やさしい味付けの鶏と大根の煮物。春を先取りしたようなみずみずしい水菜とじゃこのたっぷりサラダ。仕事の話を聞いていただいたり、彼女の博士論文の進捗をお聞きしたり。

なかでも盛り上がった話題は子供の頃に読んだ本に表現されていた料理へのオマージュ。メアリー・ポピンズの木苺ジャムとマフィン、秘密の花園のヨークシャー・プディングやカラント入りバンズ。大きくなって実際に食べてみて想像していたイメージと違っていた菓子、やっぱり美味しかった料理。彼女の読書量は勿論、どの本に書かれていたこの料理、と正確な記憶力にも脱帽。


話ながら台所の上の棚からひょいと持ってきて見せてくれたのがこの本。「秘密の花園のクックブック」。Amy Cotler著作 Festrival社 写真はAmazonより拝借。
私は岩波文庫で読んだので英語版を見るのははじめてだったが、表紙も中の料理本の挿絵も懐かしい感じがして欲しくなってしまった。食事をご一緒するたびに、都度違う共通の興味が見つかることってなかなかないこと。とても嬉しい。



2023年1月22日日曜日

大寒に

昨日今日は大寒。雪は降らないまでも身を切るような寒さ。

寒い時には・・・。散歩に行って早歩き。トックリのセーターを着こんで。飴色に煮込んだ大根をあつあつで食べるのも嬉しい。いやいや、冬は千切り大根。湯豆腐でしょう。生姜を絞り込めば香りも高く身体の中から温まる。夜になったら湯たんぽにたっぷり熱湯を入れて。寝る前にはゆっくり温めたホットミルクに少し蜂蜜とブランデーを垂らして。


大寒に 入らむと町の 空古るぶ 長谷川双魚

2023年1月15日日曜日

フランス音楽講座 マスネ 白い蝶

昨年もっていった「白い蝶」を再度もっていった。

拍感が崩れていることのご指摘を受け、弾き方や表現までは至らず。自分にがっかりしたものの、弾いていてしっくりこない、曲の理解が浅い気がしていて漠然とした自信のなさを感じていただけに、課題がクリアになってほっとした。

8分の9拍子、一般的とはいえないがマイナーな拍子とまでは言えない、でも譜面からだけではわからない、弾いてみないとわからない、不思議な音価が並んでいて、だまし絵のような曲でもある。メトロノームで練習重ねていたにもかかわらず、自分のカウントが8分の9拍子になっていなかったのだなと講座でのご指摘で納得。今は指の動きや表現というよりも、自分の中で正しい拍感で歌えるように練習中。当初考えていた「柔らかさ」メインよりも、小さい白い蝶が小刻みにひらひらと飛ぶ姿を描きたいと思いだした。

そうなると、一緒に弾く予定の「黒い蝶」は別のニュアンスで対極をなすように修正しなければ。こちらはもっと大きな黒い蝶が妖しくゆらゆらと舞う感じにしよう。

同じ2曲を練習しなおしている訳だが、昨年とはまた解釈を変えたら、どう弾いたらいいか、考えたり工夫したりするのが楽しい。正解というものがなくて、でも自分にとって腑に落ちる解釈を考え出し、自分の技量の中でどうにか実現すること。仕事も同じことがいえる訳だが、ピアノはアマチュアだからこそ思う存分自分の好きにやれるのが幸せだ。


今年はあたたかいせいか、もう紅梅が咲き始めている。春が近いと思ってはいけないのだろうが。

2023年1月3日火曜日

波もなし

昨年はいろいろあった。今年は穏やかであってほしい。このブログを読んでくださっている方々皆さまにとっても。

下旬を除けば昨年の師走は、コロナの行動制限もなくなり、業務上は必要により、プライヴェートは対面を心待ちにしてお会いできた方が多かった。人との語らいがあらためて味わい深い楽しみだった。

仕事上お世話になった技術の先輩の退職祝い。今年配属された新人や若手を誘って少人数での忘年会。業務上の関係者とのお疲れ様会。 

そしてDUOポッキーズの友人との恒例の忘年会。今年を公私ともに振り返り、来年の抱負を語らうのも楽しい。いつもは来年弾く連弾曲をあれやこれやと話し合うものだが、今回は即決。いづれこのブログでもご報告の予定。

初日さす 硯の海に 波もなし 正岡子規