昨年の話で恐縮ですが、12月の講座にもっていた曲。
プーランクが親交のあったスペインの作曲家、ファリャの「恋の魔術師」の中のメロディに刺激されて作曲した小曲。原曲はト長調・7/8拍子だが、これをプーランクはハ長調・3/8拍子へ変更した。
「ノヴェレッテ」とは「短編小説」という意味。3つのノヴェレッテのうちの1曲だが、最初の2曲は1928年に、最後のこの曲は1958年に作曲され、30年も時が経っている。1曲目はとても素直な曲想で、聴いているだけで前向きになれる。どこか懐かしく、第一次大戦が終わって10年、漸く平和を実感できた時期に書かれたのも頷ける。2曲目はこの人の代名詞である「ナゼルの夜会」の事前構想のように思える。力強く、皮肉っぽく、人を驚かしては喜んでいるような。
そしてこの3曲目。メロディは単純で、そしてとても美しい。ファリャのオリジナルから3拍子に変わったことで、7拍子といったあまりクラシック音楽では馴染みのない拍子、ラテンで野性的な鼓動が消え、優美さが全面にでてきている。その優美さが短調の旋律から憂いを引き出し、増幅するように左手の内声がプーランク独自の悩ましい和声で唱和する。同時に、右手の内声はシンコペーションで、微かなラテンの名残をリズムとして刻む。
と書くと、そうなんだー、と言って聞きたくなるだろうが、ちょっと待って欲しい。楽譜もそれほど難しそうに見えないのだが、実は非常に音が飛ぶ(遠い距離をいったりきたりする)し、左手が予想と違う動きだし(たとえば、メロディは盛り上がっているのに左手はシュルーと下がっていく)、加えて曲のダイナミクスが定型と逆(普通最初にfでメイン、繰り返すなら影のイメージで弱めに弾くのに、最初がピアノで次がフォルテですか?)と私にとっては弾くのが当初予想より難しかった。
そうなんだー、と言って聞いてみる方は、どうぞ 美しさの裏にあるプーランクの弾きにくさにも思いを馳せてみてください。
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