緊急事態宣言が解かれ、家の近くの図書スペースも久しぶりに解禁となった。ここは、住人が読まなくなった本を置いていき、また勝手に借りていくことができる、フリーな場所。この気儘な感じが気に入っている。
ふらっと寄ってみて、目を惹いた3冊を借りてきた。自分でも、ああ、こういう本に惹かれたんだとそれ自体が発見で面白い。
「逆境からの仕事学」姜尚中 NHK出版新書
冒頭から「仕事人生そのものである」と始まる。この人にとって、「仕事とは社会への入場チケット」だと定義する。それは、「在日である私は、両親や在日のコミュニティーによって庇護されて生きるのではなく、一般人として社会の中で生きていきたいと思っていました。」「社会の中で自分の居場所がほしいからでした。」
自分に言い聞かせるように諄々と記す言葉に共感した。私にとっても、生きる為のお金を稼ぐ手段であると同時に、「仕事の中にある社会的な使命」を果たすことで、この社会に参加していると実感したいのだ、と思い至った。なんとはなしに思っているものの、入社した時、転職を考えた時ぐらいしか再認識しないことを、あらためて考えさせられた。他にも、この不確実な世の中を生き抜いていくためには「人文知」が必要とし、新しい知識の得られる「生もの」と、古くから醸成され生き続けている「干物」を読書していくことの大切さも記されていて、もっと本を読みたくなった。
「鋼のメンタル」百田尚樹 新潮新書
映画となった「海賊と呼ばれた男」ぐらいしか読んだことがなかったが、タイトルがキャッチーで手にとった。内容的には人生の先輩達が今までにも記してきたものなのだろうが、表現が興味をそそるのだろう。「金属疲労をおこすな」では「きつい仕事にも泣き言や不平を一言も漏らさず、もくもくと仕事を続ける人が。そういう人に限ってある日突然、倒れたり、不調を訴えたり、過労死してしまったりすることが多いのです。逆に、すぐに泣きごとや不平を口にする人は、以外に倒れたりしません。」「メンタルを免振構造にせよ」では、「人生の暴風雨に対して、男らしく弱音を吐かずに立ち向かうという姿勢はかっこいいものです。でも、皆さん、そのせいで心の深いところで金属疲労を起こしたり・・・ないようにしてください。そのためにはメンタルを免振構造にすることです。ショックなことがあれば、がんと跳ね返すよりも、一旦それを受けてへこみましょう。」なんでもないと自分をだましていると、ショックが見えないところで尾をひいてしまう、というもの。カラッとした言い方が、そうだな、悩むよりそうしてみるかと思わせるあたり、放送作家出身の「相手を捉まえる」技が光っている。
「松浦弥太郎の仕事術」松浦弥太郎 朝日文庫
「自分の行いが、人の役に立つ。自分の中にある何かが、人に幸せを与える。簡単に言えば、仕事の目的とはこういうものだと思います。仕事とは個人の楽しみではなく、自部が社会とかかわっていく営みだと考えています。」「音楽でも芸術でも料理でも同じこと。・・・社会の中で人の役に立たなければ、いくら一生懸命にしたところで、ひおりよがりな自己満足に過ぎません。」「その人の後ろの『五十人』を意識する・・・どんな人の背後にも、最低五十人の人間関係があるという話です。働くうえで、常にこの意識をもつことは大切です。この意識があれば、人を立て、相手の儲けを考える重要性が、より深く理解できます。」いろいろなところで講演やエッセイが掲載され「暮らしの手帳編集長」として知っていたが、フリーランスとしての仕事が長く、編集長という組織の中で仕事をすると思ってもいなかったそうだ。基本一人で自立して仕事をすることと、大勢の人をまとめていく仕事、大きな変化の中で、一貫して大切にしてきたことを記したエッセイ。姜さんの本と通ずる価値観で、この二冊の本には、社会人としてもっと意味を考えて丁寧な仕事をしなければいけないと考えさせられた。
銀杏の実。朝の散歩で顔をあげて空を仰いで発見。
0 件のコメント:
コメントを投稿