ライナルディは宙に手を振った(略)「さあ、次は何を弾く?スメタナがいいな。きみはどうだ、ジャンニ?」
「う-ん、自信がないな。ドヴォルジャークはどうだ?」
ライナルディはアリーギ神父を振り向いた。「神父は?」
「わたしもドヴォルジャークがいいな」
「アントニオは?」
グァスタフェステは肩をすくめた。「ドヴォルジャークでいいですよ」
「オーケイ」ライナルディは言った。「じゃあスメタナだ」
気の合う仲間の四重奏。仕事が終わってからかけつけワインを飲みながらどの曲を弾くか決めるのも楽しい。他愛のないかけあいで曲が決まる(決める?)。こんな数行のやりとりだけで彼らの今までの来し方が想像できてしまう、さりげない会話。
ヴァイオリン職人のジャンニが、有名ヴァイオリンの取引を巡り、贋作やディーラー、収集家を向こうにまわし、仲間の死を解明していく。引用したのは彼と彼のカルテット仲間のいつもの夕べのやりとり。犯人を捜していくミステリーもさることながら、その舞台となる数々の有名なヴァイオリンの表現、そしてジャンニの人柄が魅力的な一冊である。(ポール・アダム作/英国 青木悦子訳 創元社 原題 The Rainaldi Quartet)
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