2023年12月30日土曜日

2023年度読んだ本

毎年恒例(でもないが)の勝手ベスト3ランキング。

1位 オーケストラの危機 ロバートJ.フラナガン著 大鐘亜樹訳

2位 世界をこの目で 黒木亮

3位 沈黙のたたかい レジスタンスの記録 ヴェルコール著 森乾訳

「オーケストラの危機」は今年12月に出版されたばかりの著作だ。副題が「芸術的成功と経済的課題」、本の帯には「オーケストラはなぜ黒字を維持することが難しいのか」との問いかけが。オーケストラが赤字?そんなことを想像したことがあっただろうか?華やかな舞台、ある程度常連のクラシックファンがかけつけるであろう、固定客のある「かたい」マーケットと思っていた。しかしそれが異なり、存続の危機にあるオーケストラが多いという。

本書は、「オーケストラの黒字と赤字」「なぜ黒字を維持することが難しいのか」と冒頭からたたみ込んでくる。「コスト病か景気循環か」「オーケストラ財務の諸相」「聴衆を求めて」と問いからみえてきた課題が続く。政府支援、民間支援、寄付財産と統制。単なる批評家の分析で終わらずここからが著者の視点、解決への模索がある。最後に「オーケストラの未来について」。解決策を提言するのが目的ではなく「課題を一発で解決できる方策などは存在しない」とした上で、本書の分析がオーケストラの経済的安定に寄与しうる活動を示唆すると結んでいる。研究書の為、最後まで客観的な姿勢を貫いているが、オーケストラに留まらず音楽を生業とする個人、団体が一度は目を通しておくべき書だろう。

欧米の例は知らないことが多く説得力があったが、では日本もそうなのだろうか?との問いが湧く。それに対しては訳者が12頁もの紙面を割いて、長年の財務の蓄積による鋭い考察を述べている。著作自体も新しい視点の興味深い研究ながら、翻訳者の日本の音楽界への課題意識と解決したいという情熱も、熱量が半端ではない。

著者と訳者が一体となった力作。年末に非常に深い洞察力のある本に出合うことができた。


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