この夏は名ホール・名器に触れる機会があった。季節が終わるのが名残惜しい。
40歳過ぎてからチャレンジを始めたアマチュアコンクールのお蔭で、今年はこの2つの素晴らしいピアノを弾くことができた。
杉並公会堂のベーゼンドルファーは、一次予選、二次予選とここが指定されているので、応募している限りは毎年弾く。そのたびにいろいろな感慨がある。「ベーゼンは特に低音の響きが良い」との予見があるので、自分が弾いてみると思ったよりもタッチは軽く、音も大きく響き、弱音が綺麗に出ないのではないかと心配になる。しかし後で録音で聴いてみると、「これが私が出した音?」と思う程、デリケートな弱音と、豊かなバスの響きに痺れてしまうのである。一番鮮明に覚えているのは、ドビュッシーの「雨の庭」を弾いた時のこと。なんと透明感のある美しい音が聞こえてくるのだろう、と演奏する自分と聴き惚れる自分が遊離した感をもった。こんなピアノは初めてだった。
紀尾井ホールのスタインウェイは、他のコンテスタントが弾くのを先に聴き、何と美しく響くのかとうっとりした。一方で、自分のようにペダリングに課題がある者は、上手くコントロールしないと響き過ぎて全部滲み絵のように聴こえてしまいそうだと懸念した。二曲弾くうちの最初の曲は硬質な音色で弾きたかったので、上手くできていない状態で賭けだが、ある部分はハーフペダルに、ある部分はフィンガーペダル(ダンパーペダルは踏まない)に本番でしてみた。二曲目は逆にいつものとおりのペダリングにした。ペダリングが結果どう聴こえたかは、弾いている本人にはわからないが、華やかな音、クリスタルのように繊細に響く音がホールの威力で倍増されているのは感じることができた。
望外にいただいた機会、この夏の忘れ難い思い出だ。
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